「給与の前払い」申請時に、知っておきたいルールや注意ポイント
2024/1/12 更新
「給料前払い」の間違った認識を正そう!
ルーチンワークやマニュアル作業とも呼ばれる単純作業と聞いて、〈誰でもできる〉〈頭を使わない〉〈簡単な仕事〉などネガティブなイメージを抱く人が多いのですが、実はこの考え方は、間違いです。
最近、求人広告のなかに「給料前払い制度あり」という記載をよく見かけるようになり、「給料前払い制度」を導入する企業が増えています。
「給料前払い」とは、給与支払日の前に、すでに働いた分の給与を前もって支払ってもらえる制度があることを意味しますが、これから働く人や転職を考えている人のなかには、次のような誤った認識をしている人も多いようなので最初に、間違った「給料前払い」の認識を正しておきましょう。
下に列挙した事例は、すべて会社側(雇い主)が「給与前渡し」を断ることができるケースになります。
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✕ 従業員が求めれば、会社はいつでも給与前渡しに応じなければならな
✕ 「給料前払い制度」がある会社では、従業員の申請に応じて、何度でも前払いしなければならない
✕ 「給料前払い制度」がある会社は、給与の全額を前払いしなければならない
✕ ギャンブルで散財して生活に困窮した場合、会社に給料前払いを申請できる
✕ 盗難、紛失などの事故に見舞われた場合、会社に給料前払いを申請できる
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さまざまな事情によって従業員が「給与の前払い」申請を行ったとしても、法律に定められた条件を満たしていない場合、会社側はその申請に必ず応じなければならない義務はないのです。
「賃金支払いの5原則」ってなに?
賃金(給与)の支払いルールは、労働基準法の「賃金支払いの5原則」で定められています。
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【原則 1 :通貨払いの原則】
外貨・現物(商品などの物品)等での支払いは認められず、日本銀行が発行する通貨で支払うこと【原則 2 :直接払いの原則】
給料は本人に直接支払わなければならないため、本人に直接手渡しすることが原則であるが、そのほかに労働者の同意のもと本人口座の預金への振り込む【原則 3 :全額払いの原則】
給料は全額を支払わなければならず、会社が従業員に貸し付けている金額と給料を相殺することは認められない。また、住民税や所得税、社会保険料などは給与額面から天引きすることが法令で定められている【原則 4 :月1回以上支払いの原則】
給与は1カ月単位で最低1回は支払わなければならず、経営者が海外に出張中のため来月まとめて2カ分月分を払うといったことは認められない【原則 5 :一定期日払いの原則】
10日、20日、25日など給料を支払う日を毎月特定する必要があり、「中旬あたり」「下旬頃」などのあいまいな支払日は認められない
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「給与前渡し」は、どんな場合に認められる権利なの?
誤った認識を理解したところで、次はAさん、Nさん、Mさん、Yさんの4人のケースから考えていきましょう。Aさん、Nさん、Mさん、Yさんの4人のうち、会社が前払いをする必要が法的に定められている人は、誰になるでしょう?(答えは次項)
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【Aさん】——給料の支払い日の10日前に友達Kがお金を貸してくれと泣きついてきたので、やむなく財布に入っていた5万円を友達Kに渡したが、貯金がないAさんは、手持ちのお金(生活費)がなくなってしまったので会社に5万円の「給与前渡し」を申請した。
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【Nさん】——給料日の2週間前にギャンブルで散財したNさんは、財布の中身が空になってしまったうえ預金もなく、給料日までの生活費として会社に3万円の「給与前渡し」を申請した。
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——飲み会で泥酔したときに気づかないうちに誰かに約7万円が入った財布を上着のポケットから抜き取られたMさん。翌朝、最寄りの交番に遺失物届を提出し、会社に事情を説明したうえで7万円の「給与前渡し」を申請した。
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【Yさん】——同居する妻が路上を歩いていたとき、暴走車の単独事故に巻き込まれ、救急搬送先の病院で翌日死亡。悲しみに打ちひしがれるYさんは葬儀費用を準備する必要があったが、手元にまとまったお金がなく、会社に1カ月分の「給与前渡し」を申請した。
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労働基準法で認められている「給与前渡し」の基準
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〈答え〉法的に定められ、会社側が給与の前払いをする義務がある人は「Yさん」になります。Aさん、Nさん、Mさんもさまざまな事情によって当面の生活資金を必要としていることに変わりはありませんが、この3人に対して会社側は給与を前払いする義務はありません。
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では、「Yさん」にだけ給与前渡しが認められる法的根拠を見ていきましょう。
「給与前渡し」は、労働基準法の第25条の記載によって法的に認められています。
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【労働基準法第25条】——使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他 厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない——
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上記の法律の記載は一度読んですぐに理解できない人も多いと思われますので、わかりやすく和訳(!?)すると次のようになります。
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——出産、疾病、災害などの非常時の費用に充てるため、従業員が前払いを申請した際は、給与の支払日前であっても、雇い主は従業員が働いた分の賃金(給与)を支払う必要がある——
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労働基準法で定められた“非常時”って、どんな“時”のこと?
さらに、「労働基準法第25条」に記載されている「労働者が出産、疾病、災害その他」の“非常時”は、「労働基準法施行規則第9条」で次のように定められています。
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非常時 1/労働者の収入によって生計を維持する者が出産または疾病に罹ったとき
非常時 2/労働者の収入によって生計を維持する者が災害に見舞われたとき
非常時 3/労働者またはその収入によって生計を維持する者が結婚したとき
非常時 4/労働者またはその収入によって生計を維持する者が死亡したとき
非常時 5/労働者またはその収入によって生計を維持する者が、やむを得ない事由(事情)により一週間以上帰郷するとき
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つまり、——同居する妻が交通事故で死亡したYさんが、葬儀費用のために会社に1カ月分の「給与前渡し」を申請した——という場合、労働基準法第25条に記載された“非常時 4”に該当することになり、会社側はYさんに給与を前払いする義務があります。
“非常時”に該当しなくても「前払い」してくれる企業が増加中!
実は、求人広告を検索する際に「日払い」や「前払い」のキーワードを使って仕事を検索する人の割合は高く、アルバイト、パートで働く人の多くが「給料日の前に働いた分の賃金を受け取りたい」と考えていることを示した調査結果もあります。そうした調査結果を受け、採用応募数を増加させたいと考えている企業の多くが「給与前渡し制度」を導入し、募集広告に「給与前渡し制度あり」と記載しています。
実際に、工場を順調に稼働させるための要員が足りず、慢性的な人手不足に悩む食品メーカーが、「日払い可」「前払い可」を募集条件に打ち出して採用活動を行ったところ、応募者数が4倍近くに伸びたというケースも! こうした実例から、人手不足に悩む企業では福利厚生の一環として「日払い」「前払い」を導入するケースが増えていて、いずれの場合も募集人数が増え、定着率アップなどの成果が得られる点から、さまざまな業種・企業で「前払い制度」が注目されるようになったのです。
実際に、工場を順調に稼働させるための要員が足りず、慢性的な人手不足に悩む食品メーカーが、「日払い可」「前払い可」を募集条件に打ち出して採用活動を行ったところ、応募者数が4倍近くに伸びたというケースも! こうした実例から、人手不足に悩む企業では福利厚生の一環として「日払い」「前払い」を導入するケースが増えていて、いずれの場合も募集人数が増え、定着率アップなどの成果が得られる点から、さまざまな業種・企業で「前払い制度」が注目されるようになったのです。
「給与前渡し制度」を利用(申請)時の注意ポイント
「日払い」はその名の通り、一日の業務を終了した段階でその日の賃金を受け取れる支払い方法ですが、「給与前渡し」は1カ月分の賃金を対象とした前払いになるため、申請や受け取りについて企業ごとにルールが異なります。
給与前渡しには、「前払いサービス事業者」が業務を代行する「立替払い型」と、雇い主が直接支払う「自社払い型」の2つのタイプがあり、「自社払い型」はその言葉の通り、従業員への前払い分の給与を自社(雇い主)が計算し、資金を工面して支払うものです。
また最近は、計算や事務手続きに人手を要し、総務・経理に負担がかかる点から、外部の「前払いサービス事業者」に依頼する企業が増えている傾向にあります。
ニーズを受けて急増する「前払いサービス事業者」
「立替払い型」とは、前払い分の給与を「前払いサービス事業者」が企業(従業員の雇い主)に代わって支払い分を立て替えることを指し、前払いサービス事業者によって以下のような違いがあります。
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■サービス事業者によって、事務費、金利が支払い分から差し引かれることもある
■サービス事業者によって、振込手数料の負担先は雇い主・従業員の違いがある
■スマホ、ガラケー、PC、メールなど、前払いの申請方法はサービス事業者によって異なる
■振込みのタイミングは「翌日」「即日」など、サービス事業者によって異なる
■前払いの回数や金額制限などが定められている場合がある
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給与前渡しサービス事業者には以下のような企業があり、従業員にとってもメリットはさまざまなです。
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〈楽天早トク給与〉楽天カード(株)が運営。申請1回につき5ポイントの楽天ポイント付与
〈フレックスチャージ〉三菱UFJ銀行が提供。PC・スマホの操作で手軽に利用可能
〈即給 byGMO〉三井住友銀行がシステム提供。口座やカード不要で給与口座で受け取り可能
〈プリポケ〉伊藤忠商事100%子会社が提供。スマホでいつでも前払い申込みが可能
〈即払い〉大手企業が導入。スマホ、ガラケー、PCから24時間申請可能
〈Payme〉若者が活躍する飲食チェーン、小売業界で活用。スマホから簡単登録・申請可能
〈CYURICA〉働いた分を全国5万6000台以上ATMから、手数料のみで即時引き出し可能
〈まえばらいどっとこむ〉出退勤の管理から前払いまでをワンストップサービスで提供
〈前払いできるくん〉入会審査・上司の許可も必要なく、問合せにも専門スタッフが対応
〈エニペイ〉給与を好きなタイミングで受け取れる新しいデジタル給与払いに対応
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——「給与前渡し」を利用する場合は、事前にスマホで登録しておくなど、サービス事業者によって申請手順や手続きの方法が異なるため、回数や金額などの制限、手数料などのルールについて、事前にきちんと確認しておくと、より安心でしょう。
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